2考古学と日本かぶれのフランス人である夫との出会い

今日、最後の顧客情報をパソコンに打ちおえて、キーボードの音が止んだ部屋は静まりかえった。

社長が番茶をすする音だけが、閉店間際の部屋に響いた。

やった~!残業しなくてすむぞ。帰り支度をはじめようとしたその時だった。

開いてはいけない不動産屋の入り口が開き。

「たのもーっ」という声が聞こえた。

入り口に立っていたのは、白装束に葦で編んだ傘をかぶり、六角の杖をついた白人の男性だった。

完全に修験者のかっこである。私の10年の不動産業の経験則がはっきりと言うだろう。

これでは、アパートの申し込みをしても大家さんの審査で落ちるだろうと。

まず、大家さんが怯えてしまう。

しかし、この白人の男は、不動産を所望していたのではなかった。

「正倉院は、どっちですか?」

私と社長は目を合わせ、互いの目が丸くなっているのを確認した。

その不動産屋は、四国高松にあった。

正倉院は、奈良にある。

「どっちと言われても…あっち?」

私は北を指差した。白人の男性は、頭を深く下げると。

「かたじけない」

そう言って、不動産屋から出て行った。

なんだか、わけのわからないこの男と3年後、私は結婚する羽目になる。

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